これ以上獅紋くんを苦しませたくない、という思いと、心の底にある本音から頷くと、獅紋くんは囁くように「李璃」と呼んだ。
「俺が、傷付けてしまったのか?」
「ううん……獅紋くんは、何も悪くないよ。ごめんね。私はもう、素直に喜べなくなっちゃったけど……大切な記憶を、思い出させてくれてありがとう」
「……!」
思い出さなければ、苦しまずに済んだ。
そう思う気持ちもある。
でも、大切な人を忘れたままでいるのは、とても悲しいことだ。
だから、獅紋くんにお礼を伝えた。
それなのに、獅紋くんは何故か動揺して、苦しそうに私を見る。
「李璃。李璃は……っ、……いや。何でも、ない」
「獅紋くん……?」



