白の姫に差し伸べられた、光と闇の手



未だ、心臓は早鐘を打っている。




瑠璃(るり)ちゃん」


「っ……よ、うた」




早く來樺院獅紋から逃げたい、と、それだけを思って廊下を歩いていると、前から翠笑の声が聞こえた。

いつの間にか俯いていた顔を上げれば、嘘くさい笑顔を浮かべた翠笑が立っている。




「大丈夫? さっき、ふらついたみたいけど。やっぱり眠れてないの?」


「……聞いてたの? 慣れない場所だから、少し神経質になってるだけ。平気」




目を逸らして他者に聞かれても問題無い言葉を選ぶと、早足で翠笑の横を通り過ぎた。


今は1人になりたい。

そう思っていたのに、後ろから抱き締められて足が止まる。




「ねぇ、獅紋のせい?」


「……離して、夜唄(ようた)




せっかく他人の振りをしているのに、こんなところを誰かに見られたら。