ほんとは、あんな一瞬のキスなんかじゃ足りなくてもう一回して欲しかった。
だけどあたしが泣きそうな理由も「キスしてよ」って叫んだ理由も何も察してくれずに困った顔をする薫くんに無性に悲しくなって、出掛かった言葉を飲み込んだ。
薫くんの心は本当にあたしから離れてじったんじゃないかってギュウッと胸が痛い。
「⋯柑奈」
「っ、」
「何かあった?」
薫くんは意地悪で、たまに最低で、バカヤロウで、だけどそんな薫くんが俯くあたしの顔を覗き込んで珍しく優しく声を掛けている。
今まで、こんな事なかったから。
大抵あたしが騒いで泣くのは薫くんもその理由をちゃんとわかっている時だから。
薫くんが意地悪言って、あたしが愚図って。
そんな感じだったから、何の心当たりもない薫くんは目に涙を溜めながら睨むあたしに戸惑っている。
そりゃそうだ。
たまたま聞こえてしまった初音さんの声。
もしかしたら数人の友達といたのかもしれないし、薫くんは初音さんの声があたしに聞こえていた事も知らないんだろう。
だから、薫くんには心当たりがない。



