「君、結構かわいい顔してるからさ。今はそういう趣味の男も珍しくない」



……心配してくれてるの?

こんな初対面で、路地裏に座り込んでる野良猫みたいな私を…?


いやいや世の中はそんな簡単に信用しちゃいけない。

1人で生きて行くんだから疑わなくちゃ。
うまい話には必ず裏があるってこと。



「この街は危ないよ。ほとんどヤクザとチンピラしか歩いてないからね」


「…匿ってくれるって、住まわせてくれるってことですか…」



そうなるかな、と。

愛想の良さそうな笑顔も一緒に返ってきた。



「但し、条件として僕のために働いてもらう。そうすれば君の生活と安全くらいは保証するよ」



だよね、やっぱりだ。

うまい話には裏があるって、いま思ったばかり。



「僕は君の足の速さを買いたい。それで君はどうせ、行く宛もないんでしょ?」


「……」



…図星だ。

このままやり過ごすか、ふらふら歩いて気軽に泊まれそうなネットカフェでも探すつもりだった。



「……いま何時か教えてもらっていいですか」



スッと伸ばした手、すぐに掴んでぐいっと立たせてくれる。

「21時30分」と、雑踏の中にハッキリ聞こえる声。


それが“交渉成立”の───合図。