「───…だいぶ夜は涼しくなってきたよね。僕のサングラスかける?」


「……サングラスは…防寒対策あるの、」


「めちゃくちゃ温かいよ」


「いやどの辺がっ!」



ねぇ、盗られたのは、どっち?


そして何が盗られたの…?

射止められてしまったのは……盗られてしまっていたのは。



「た、隊長…、」


「…わかった。ミオは照れると僕をそう呼ぶってことか」


「えへへ、たいちょうっ」


「───…かーわい」



あの日、路地裏で見えた月はやっぱり月だった。

街灯なんかじゃなくて月。

“皐月”っていう月だったんだよ。


あの瞬間、もう私の心は盗られてしまってた。



「あ、あの……隊長、」


「ん?」


「もう3回くらい…、お願いします、」


「なにを?」



さっちゃんの膝の上。

ボッと真っ赤になる私を見て、欲張りだねって顔でくすくす笑ういじわるな隊長。



「せ、せっぷん、」


「いや古すぎだって。ここは江戸?」


「だ、だって…!~っもう!ナンバー5はキスをしてほしいであります…っ!」


「あははっ、了解であります」



青い夜に盗られた涙味のファーストキスは。

いつの間にか、ちがう涙味に変わっていた。