「由夢ちゃんそろそろ始めて!俺限界!」

「あぁ、すみません!言います!」

校舎の方を向いて、すぅっと息を吸う。

「どーぞーさんがこーろーん…ッ」

「切った!!!」

繋がれた凛空ちゃんと私の手を離すように暁先輩が割り込んだ。

「…っ!」

その瞬間捕まってた2人が一気に走り出す。

「…銅像さんストップ!!!」

なるべく早く宣言したうもりだったけど、結構距離があると思っていた暁先輩がこんなに早くタッチしに来るとは思わなくてちょっとだけ出遅れてしまった。

みんなの状況を確認するために振り返る。

「………。」

「1番近いのはノギじゃね?」

「そうっすね、会長です!」

「待てよ、助けてやったのに俺を売る気か!?」

確かに、距離的には暁先輩が1番近い…けど。

「由夢ちゃん、ルールは5歩だからね!5歩以内に捕まえるんだからね!」

1私の足で5歩ってかなりギリ…、イケるかな。

「行きます…っ」

ピンっと手を上げて、勢い付けてから一歩踏み出した。

「1、2、3、4…っ」

残りはあと一歩、いっちばん大きく踏み込んだ。

たぶんそれでギリギリ届くくらい…!

届かせることに夢中でつい張り切っちゃった。

タッチでよかったのに、勢い余って飛び込んでしまった。


暁先輩の胸の中に。


「!」

止めることなんかできなくて、そっと抱き留められた。

「すみませんっ」

「全然、由夢ちゃん大丈夫だった?」

「はい、大丈夫です!全く以って!」

慌てて離れるとにこりと暁先輩が笑った。

「楽しかったね!」

顔が熱くなる。

手で隠すように髪の毛を直すフリをした。

「楽しかったね~、みんな~!」

「ノギの負けだけどな」

「花絵ちゃんもう終わったから山のポーズしなくていいよ」

「てか藤代先輩ずっと動いてないっすよね?」

体中がドキドキしてる。

何コレ、わかんない。

「今回の合宿の目的達成!」

「…このゲームにそんな目的あったの?」

意気揚々とさっきの近所にあるというなんか楽しそうな像みたいに両手を上げた暁先輩に顔をゆがめる花絵先輩、基本表情を変えないけど嫌そうな表情は得意らしい。

「今回の合宿は俺ら5人の親睦会だからね!」

そういえばそんな風に言っていた。

なんで朝から中庭に呼び出されるんだろうって思ってたし、急に変なルールついたゲーム始まるしで、戸惑っていたけど。


“楽しかったね!”


すっごく楽しかった。

だって気付いたらみんな笑ってたもん。


あ、花絵先輩はわからないけど。