衝撃的な事実を突きつけられた時、信じがたい場面を目撃した瞬間、ぽかんと開いた口が化石のようになってふさがらないのは、あながち間違いじゃない。

 家路へ向かう途中にある小さな神社。道路と鳥居の脇林縁部(りょうえんぶ)に石垣が積まれ、その上に大きなスギの木が立っている。

 木の隣に立つ男子の肩から掛けられた、知っている黒い通学リュックに目を奪われた。

 濡れた道路に横たわる桜色の傘と、黒地に白と灰色の格子柄(こうしがら)をした見覚えのある傘の中で近付く人影。
 プリーツスカートからのぞく黒タイツの脚が背伸びをして、グレーのズボンに体を傾けていく。

 少し傘が動いて、露わになった女子の後頭部が男子に重なるようにして動きを止めた。

 頭上で傘に響く小さな雨音は、まるで天が泣いているように囁やかな音色をしている。

 一歩ずつ足を後退させ、三歩目でやっと駆け足になってその場を離れた。

 頭が混乱して、息をすることと瞬きを繰り返すことで精一杯。ひたすらに走らせる靴は泥水を跳ねて、靴下やスカートを汚すのも気にならないほど体の震えが止まらなかった。

 薄汚れた格好でレンガの階段を上がり、玄関の前で傘を閉じる。

 神社の前にいた女子高生の体勢と頭の角度から、キスをしていた事が予想された。相手の男子生徒は、鶯くんだった。