虫だらけの上靴、ページが足りない教科書、袖がない体操着。これが夢だったら、と何度思っただろう。

 バレーのボールが弾かれる音を立てながら、ネットの上を飛び交う昼下がりの校庭。制服の膝を抱えて、私は隅の木陰に座り込んでいる。

「体操着を忘れた人は、授業には出れません」

 五分前の先生の声が、まだ頭に木霊(こだま)している。次回からは半袖を使えば良い話だけど、新しい長袖を買って欲しいとお母さんに言いづらい。なんて言い訳しよう。

 ボールが足元に転がって来て、クラスの女子が駆け足で近づいて来る。いつも藤春さんにくっ付いている子。

 やだな。何か言われるかもしれない。

 でも、ボールは導かれるように私の元へやって来る。望まない時こそ引き寄せてしまうものね。
 迷いながらも手を伸ばすと、案の定、(やいば)のような声が飛んできた。

「触らないでくれる? 地味が感染(うつ)るんだけど」

 ボールを拾って颯爽と去っていく後ろ姿に、「ごめんなさい」と心の中で呟く。ほら、やっぱり拾わない方が正解だった。

 関わらなければ無難に過ごせるのに。鶯くんの言う通りにしていたら、こんなことにはならなかった。