土曜日の午前だと言うのに、相変わらず窓の外は悪魔の声をした雨音が鳴っている。

 気分が沈む雨の日は苦手だ。

 リビングのテレビからは、気を紛らわす賑やかな声がBGMになって流れて来た。ソファーのクッションに埋まる茉礼は、今日も浮かない顔をしている。

 長い黒髪は重い印象を持たせ、暗い表情は見るからに負のオーラを身にまとって。 (よろい)のような前髪から垣間見える瞳は、とても澄んだ綺麗な色だ。

 その(けが)れのない純粋な宝石を、僕にしか見せない。

「明日、一緒に出掛けようか」

「ほんと? 鶯くんと外へ出掛けるなんて、久しぶり……嬉しい」

「たまには、外の空気を吸った方が気分転換になるだろ?」

「……うん」

 白い肌をほんのり桜色に染める茉礼の笑顔は、僕を安心させてくれる。

 茉礼は、ほとんど家の外へ出たことがない。

 恋の話をする友達もいなければ、誰かと冗談を言って笑い合う環境にいたことがない。
 彼女の城は家だけ。子どもの頃にした僕との約束を、ずっと健気に守っている。