『人間 平熱体温 低い』『低体温症 レベル』『氷の国 日本』『雪女の体温』

 意味不明な単語を並べて、家のパソコンへ真剣に打ち込む姿は、自分でもどうかしていると思う。

 ーー体温30度で脈拍や呼吸の減少、血圧の低下などが起こり、28度では昏睡状態となり、25度で仮死状態、20度で死亡するというのが一般的です。

 画面にかじりつきながら、ため息が出る。


『多分、今の体温三十度ないの。普通だったら、きっと話してられないね。青砥さんなら、馬鹿にしないで聞いてくれる気がして』

 初めて秘密を明かされた時の会話を、思い出していた。

 友達になってと言われた時、嫌だったわけじゃない。

「……呪い……かぁ」

 偽善(ぎぜん)(あわれ)みという言葉だけでは、胸の中に現れた不思議な感情を消化しきれない。

 深夜一時になっても部屋の灯りは消えることなく、文字を打つ手は止まらなかった。

 ある程度時間が経って今の方が冷静さを取り戻しているはずなのに、カミングアウトを受けた時より頭の中はハテナで溢れている。

 今まで、人と関わらないように生きて来た。そうすることで、二人の特別な世界を守って来られた。鶯くんに嫌われたくない。


 ーーでも。

『……知ってる? 世界ってね、わたしたちが思ってるよりすごく壮大なんだよ? 未知なことが、たくさんあるの』

 心の奥底では、知りたいと思っている。
 私の知らない世界が、この世にどれほど存在するのか。