雨の日は心地がいい。空気が湿っぽくどこか孤独で、なにより傘をさすことによって顔を見られずに済むから好き。

 だから、今も「早く時間よ過ぎ去って」と願いながら顔を下げている。

 学校帰りの電車に揺られるたび、長い前髪は頬と顎の輪郭を隠していく。

 いかにも陰気臭い私の耳に入り込む向かい側の声。

「ねえ、アレ。前髪長すぎない? てかお化けじゃね?」

「アハハ、聞こえちゃうって。ああゆう子に限って、カレシ持ちだったりするかもよ〜」

「えっ、マジで?」

「それはないかぁ〜」

 他校の制服を身にまとった女子たち。濃い目元と赤い唇を交互に動かして、高笑いをする彼女たちの話題にされている人物は恐らく私。

 背中まである黒髪は真っ直ぐ下りて、前髪は黒縁眼鏡のフレームに掛かっている。

 もうすぐ梅雨明けだからではなく、年中膝下のスカート丈は、紺のハイソックスと繋がってタイツ化。見るからにダサい。

 でも、私にはそんなこと関係ない。好きでこの格好をしているのだから。