スノー&ドロップス

 バタバタと病室を出て行くお母さんを見送って、ボタンを押そうとした。鶯くんがそっと手を止めたから、親指をゆっくり戻す。

「今日って、何日?」

「……今日は雛祭りだよ」

「そうか」

「四日間、寝てたんだよ」

 思い出して声が震える。
 鶯くんを失うと思ったとき、怖くてたまらなかった。何もできなかった自分が情け無くて、憎らしかった。

「どうして死なせてくれなかったんだ」

 天井を向いたまま、鶯くんがつぶやく。

「鶯くんのことが……大事だから。生きていて、ほしくて」

「それは茉礼のエゴだろ。茉礼のいない世界なら、生きていても意味がない。僕を受け入れられないくせに、無責任に助けてほしくなかった」

 遠い目をしている。今にも消えてしまいそうな弱々しい声。力ない手が握り返すことはない。

「それは、その通りかもしれないけど。私にとって、鶯くんは特別なの。誰にも変えられない人なの。ずっと、大好きな人なの。いてくれないと、私が死んじゃうの」

 ぽろぽろと涙があふれて、シーツに染みが広がっていく。

「目覚めたくないと思ってた。でも、声が聞こえて、茉礼が呼んでるんだ。うるさいくらい。……もう一回、茉礼に会いたくなった」

 一方通行だった手が、優しく握られる。少しずつ強くなって、鶯くんはゆっくりとまぶたを閉じた。

「鶯くんは、一人じゃない。お父さんもお母さんも、私もいる」

「……そうだな」