朝のショートホームルームが終わり、にぎやかな教室から立ち去る。頼まれていたプリントを抱えながら、職員室のドアへ伸ばした手を止めた。少しだけ開いた隙間から、担任の声が漏れてくる。

「藤春、その髪どうにかならんのか?」

 聞いてはいけないと思いながらも、入るタイミングを逃してしまった。

 今日は休みだと思っていたけど、来ていたんだ。

 生徒指導もしている担任は、以前から服装や髪色にうるさいと知られている。藤春くんは、特にその対象となっているようだ。

「前も説明しましたが、これは光の加減で」

「あのなぁ……。今ここでと言えばセクハラやら体罰と騒ぐのがいるからできんが。それは目立ちすぎだ。明日までに直して来なさい」

 ピシャリと放たれた言葉に返事はない。

 藤春くんは人より髪が明るいけれど、今までは地毛だと認められていた。子どもの頃の写真を見ての判断だと、以前先生が言っていたのを覚えいる。

 今さら、なぜ。このときは、そう疑問に思っていた。職員室から出てきた藤春くんと、すれ違うまでは。
 さらりと背中までなびく髪は、白っぽい印象を受けた。昨日までとは明らかに異なる、まるで雪景色を連想する色だ。

「青砥さん、いたんだ」