パン職人の店長を、好きになりました。




《彩愛side》

「……っ、みっみんな見てます!」

「見ててもいいでしょ? 久しぶりに会ったんだから可愛い彼女にキスして何が悪いの?」


 久しぶりに会った彼は、出会った頃よりもさらにイケメンで年を重ねるたびに大人の色気を纏っている。

 そして皆の注目を浴びている。それに比べて平凡な私。少しはメイクをして顔をつくっているが、地味な顔は治せないしファッションだって冴えない。以前、帰国した時に購入したワンピースを着ているが似合っているのか分からない。


「何か美味しいもの食べに行こうか。いつも行く和食屋さん予約したんだ」

「楽しみ〜! あそこの筑前煮美味しいんだよね〜あとたけのこご飯も!」


 庵さんは私の手を握ると駐車場へ向かい歩き出したから小さい声で「庵さん……大好きです」とつぶやくが聞こえたかはわからない。

 その日の夜、私たちはお互いに作ったパンを食べ合いっこをしながら品評会をする。私が専門学校を卒業した時からやっているこの会は帰国した時には必ずする決まりとなっている。


「めちゃくちゃ美味しいよ、このクロワッサン……香りもいいし、ベタベタしない感じが好きだな」

「ほんと!? 良かったーこれ、レモンの天然酵母だよね……香りもいいし、これハチミツのクリームがとても美味しい」


 庵さんはクリームを作るのが本当に上手だ。それが生地と喧嘩しないのがとてもすごいと思う。もちもちふわふわの生地は今も昔も変わらない。


「ふふっ……懐かしいですね」

「え? 何が?」

「私が高校生の時、こういうことほぼ毎日してたなあって」


 バイト後に庵さんと新作パン食べて意見出し合ってて、あの時は私もパン職人になって自分のパンを庵さんに食べて貰って褒められるだなんて思ってなかったな……。


「そうだな、彩愛が俺よりもパン職人として大きくなるなんて思わなかったけど」

「私もです。あんな素敵な賞いただけて……でもそれは庵さんのおかげです」

「俺は何もしてないけど」

「専門学校通っていた時言ってくれたこと今でも覚えてます。庵さん……」


 あの時違う世界を見ることを選ばせてくれて本当に良かったと思ってる。ずっと“庵さんの役に立ちたい”“支えたい”って思いがあった。だから頑張って来れたんだと思う。


「私を【ベーカリー いおり】で雇ってください」

「……い、今なんて」

「私、フランスのパン屋辞めてきました。一時帰国じゃないです、これからはずっと日本にいます」

「……っ……」


 庵さんは驚きすぎて目が点になっている。こんな驚く顔なんてレア……写真撮りたいくらいだ。


「あと私、住むとこないんです。だからここに同居させてください」

「ええっ」

「これ断られたら行くとこないんですけど……」

「……断るわけ、ねーじゃん」


 そう庵さんに言われて「ほんと!?」と前のめりになる。