日向野怜、大学2年…
だけどこれは少し前の話、俺が中学2年生だった頃。

あの頃はまだ父さんも母さんも今よりは家にいたかもしれない。そんなことはどうでもいいんだけど。


それより気になってるのは、隣のコイツ。


「あたしキスがしたい!」


最近かけたゆるふわパーマがお気に入りらしく伸ばしている最中の髪に、中学生のくせに引いてるアイライン、書いてる細い眉毛、これでもかってほど短くした制服のスカートをステータスとしているこの女とは生まれた時からなんだかんだ一緒にいる。


いわば幼馴染みってやつ。

名前は佐藤結華。


つーか街中で何叫んでんだお前。

「よくよく考えたらあたし彼氏いたことないのよねー、こんなに可愛いのに」

そらケバいからだろ。誰も寄りつかねぇーわ。

「怜はしたことある?キス」

「は?」

家は隣だし、同じ学校だし、なんならクラスも同じだし…そんなわけでこうして下校も2人でになってしまう。

「ないか、ひょろメガネの怜にそんなチャンス!」

「誰がひょろメガネだっ」

「じゃあ、あるの?」

「…ないけど」

そうよね~、なんていいながらスタスタと歩いていく結華。なんかすげぇ癪だった。

「興味あるんだけどな~、キス。どんな感じなんだろ~」

リュックについた大量のキーホルダーがジャラジャラうるさい。結華が歩くたび揺れた。本人もリュックもうるさいってどうなってんだ。

「ねぇ、怜!」

「なんだ?」

一刻も早く宿題を終わらせようと考えていた俺に、にこりと笑って結華が提案して来た。

「あたしとキスしてみない?」

「なんでだよ!!!」

「えー、だってしてみたいんだもんーーー!でもするには相手が必要じゃん?怜しかいないんだもん、そんな都合良い相手!」

「枕とでもしとけっ!」

まだ家に着くには距離がある。もうしばらくこれの相手をしなきゃいけないのかと思うとうんざりした。

「つーかそれは付き合ってる奴らがすることだろ?なんで俺が結華としなきゃいけないんだよ」

マジで早く帰ろう。こっから早歩きで帰ろう。競歩で帰ろう。

せーので歩くスピードのギアを上げようとした時だった。


「じゃあ、あたしと付き合う?」


「は???」

「あたし怜のこと嫌いじゃないよ」

………いや、そうゆう問題なのか?違くない?

「怜は?」

「俺は…」

結華と視線を合わせた。


「嫌いじゃない」


それは間違ってなかったから。

「じゃあ決まりね!」

まさかこんな感じで進んでいくとは思わなかった。


夏休みが始まる少し前、俺と結華は付き合い始めた。