タタタッと芽衣が階段を駆け上がっていくのが分かった。そのあとバタンっと大きな音が聞こえた、部屋に駆け込んで行ったんだと思った。

最初から見る気のなかったテレビを消した。

「…はぁ」

なんでだ、何をそんな頑なに。

ソファーの背もたれに頭を預けるように後ろに寄り掛かり、深く息を吐いた。

泣きたいのは俺の方なんだよ。

そりゃうちに贅沢できるような金はないけど、佐藤家にお世話になりすぎてもいけないし、俺だってそれなりにやってるつもりなんだけど…思春期の娘のことはわかんねぇな。娘じゃねぇーけど。

「何考えてんだろうなぁー…」

「「怜くん、今のは言いすぎだよ」」

天井を見上げる俺の視界に入って来たのはいつものあいつら。

「双子!?お前らいつから…っ」

「「最初からずっと」」

「お前らここ人ん家だぞ!勝手に入って来るなよ!」

「「俺らん家みたいなもんだよ。だって怜くんよりここで芽衣と過ごしてるよ」」

なんでもかんでも声を揃えてくるのが今はなんとなく腹が立つ。

俺が座るソファーの前にあるテーブルに2人して肘を立て、その上に顔を置いてこっちを見ている。同じ顔で。

「…俺はお前ら子供と違って忙しいの」

「忙しさを理由にするなんてナンセンスだなー!」

「もっと明確にわかりやすく理由説明して!」

ちっちっちと人差し指を左右に振って来る奏志と前のめりに聞いてくる大志。

「バカにしてんのか、お前ら…!」

「「芽衣にも説明してって言ってたじゃーん」」

危うく挑発されそうになった。

子供のあれやこれやに大人の俺が流されてたまるかっ

頭を掻いて、はぁっと息をつく。1回仕切り直しだ。

「…芽衣は言えなかったんだよ、その理由を」

「言えないこともあるんじゃないの?」

なんだそのなんでもわかってるみたいな大志の口調。

「は?」

それに続くように奏志が言う。

「怜くんが芽衣のこと心配してるのは俺らも知ってるよ。夜遅い日は俺らに迎えに行けって何度もLINEして来てさ」

「…まぁお前らいたら大概大丈夫だろ」

「でも…怜くんじゃなきゃだめなこともあると思うよ。俺らにはとーちゃんもにーちゃんもねーちゃんもばーちゃんもじーちゃんも弟もいるし、…俺には奏志もいるけど、芽衣には怜くんしかいないんだよ」

「そんなのわかってるよ」

俺が言い終わるか言い終わらないかのところで双子が声を同調させる。


「「じゃあなんで芽衣がバイトしたいなんて言い出したんだと思う?」」