ホームルームも終ってあとは帰るだけ、スクールバッグを肩にかけ帰る支度をしていた私に日直日誌をヒラヒラとさせながらやって来たのは大志。

「芽衣、今日日直だよ!俺と!」

「あ、忘れてた!」

すっかり頭の中から消えていた。日直は帰りまでに日直日誌を提出して帰らなきゃいけないんだった。

1つの机に向き合って日直日誌を書いた。
ぼーっとする頭、頬杖をして支えるように。

「1時間目ってなんだった?」

「国語じゃない?ミロのヴィーナスの話」

「そんなのやったけ?」

お世辞にも上手いとは言えない字で、丁寧という言葉はヤツの頭の中にはないのかっていうぐらい殴り書きで書かれていく。かろうじて読めるギリギリの字を書くのが上手い。

「腕がない方がより美しさを際立てるって話のやつ」

「へぇー」

「…大志、寝てた?」

「…寝てない!」

「寝てたじゃんそれ!織華ねぇーちゃんに言ってやろ」

「ばっ、やめろよ!」

今にも意識が遠のきそうになる教室で、なんとか会話を成立させながら日誌を埋めていく。

そろそろ書き終わるなというところで、ダダダダッ!とさらに頭を響かせる音が聞こえた。

「なぁなぁなぁなぁ!」

ガラッとこれまた大きな音を立て、やって来たのは片割れの方。

「お前暇?サッカーするのにメンバー足りねぇの!来い!」

「来いってなんだよ!来てくださいだろ!」

ドアを開けたまま、教室の外から呼びかける奏志の声もどこまで届いてるのかなってぐらい大きい。

「暇だろ、早く来いよ!」

「暇じゃねーわ!日誌書いてんだよ!」

「日誌?あー、日直?」

ゆっくり立ち上がって、日直日誌を手に取った。教室の前方にかかった壁掛け時計を確認するともうすぐ4時になるところだった。

「いいよ、もう終わりだし。私先生に渡してくるから」

「芽衣もサッカーやるか?」

「やらなーい、帰る!」

机に掛けてあったスクールバックを肩にかけ、2人にひらっと手を振る。

「今日一緒に帰らないの?」

「2人のサッカー見てるのもあれだし帰るよ、大志もサッカーして来ていいよ」

「ふーん、そっか」

「「………。」」

「なんか芽衣…」

「え?なぁに?」

「ううん、なんでもない」

大志が何か言おうとしてやめた。

そのままなぜか2人が顔を見合わせた。

「?」

じゃあね、ともう一度手を振って職員室へ向かった。