「買いたい本はあったか?」

 しばらくして、秋葉が私のところにやってくる。

 見ると、秋葉の手にも一冊の文庫本が。

「あれっ、秋葉も何か買うの?」

 へえ、秋葉が読書だなんて意外!

「まあな。俺もポップに惹かれてつい。見てるだけで楽しいしな」

「うん、楽しいよね」

 確かにこの店は、何か買いに来たわけじゃなくても、お店の中にいるだけで楽しい。

 しかも、ついつい手を伸ばしてしまう仕掛けがいくつもあるんだよね。

 個人経営のお店だし、店内が広いわけでも大きいチェーン店という訳でもないのに。

「あ」

「どうした、花帆」

 秋葉が不思議そうに私の顔を見る。

「ううん。あの……私、この後、寄りたい所があるんだけど大丈夫?」

「うん。いーけど、どこに寄るんだ?」

「文房具屋さん」

 私は秋葉の目をまっすぐ見て答えた。

 私の頭には、兎月堂にお客さんを呼び戻すある作戦が浮かんでいた。

 名付けて――「ポップ大作戦」!