和菓子庵・風雅を出ると、秋葉が時計をチラリと見た。

「さて、まだ時間はあるけど、どこか寄りたい所とかあるか?」

 私はうーんと上を向いて考えた。

「そうだなあ……あ、もし良ければ、この先にある本屋さんに寄りたいなあ、なんて」

「そういえばお前、本好きだって言ってたもんな」

 二人で少し歩いたところにある本屋さんに向かう。

「はぁ」

「どうしたの?」

 私はため息をつく秋葉の横顔を見つめた。

「いや。近くにあんな良いお店ができたんじゃ、うちに人も入らないはずだよな」

「そ、そんなことないよ。今は開店したばかりだから向こうにお客さんがとられてるだけで、しばらくしたら元に戻るって」

「そーかな」

「そうだよ! だって美味しいもん、兎月堂のお菓子!」

 私が力説すると、秋葉は少しキョトンとした後で、柔らかく目を細めて笑った。

「……あんがと」

 いつになく優しい秋葉の笑顔。

 私はつい目をそらした。

 なんだ、そんな顔できるんだ。

 いつもフキゲンなのかと思ってた。

 さっきの関節キスの余韻が残ってるのか、まだ心臓がドクンドクンって言ってる。

 ああもう、早く静まれ、私の心臓!