この前の侯爵家での事件も無事に解決し、新たに受けられる依頼もないとなると、今日は一日時間がある。


 ならば久々に町を歩いてみようか。

 黒瀬いわく、探偵は望まずとも事件を引き寄せてしまうものらしい。その言葉の通り、前世では休日に黒瀬と少し出かけただけで、強盗事件だとか立てこもり事件だとかに巻き込まれたことが数回ある。無論、全て黒瀬が機転を利かせてあっさり解決したのだが。

 今世で偶然そういった事件に出くわしたのは、静奈としての記憶を取り戻したあの一回きりだ。

 シエラは今でこそ探偵と呼ばれているが、結局中身は探偵の真似事をしている探偵助手。黒瀬の言う「事件を引き寄せてしまう探偵」には当てはまっていないのかもしれない。

 だがそれでいい。行く先々で依頼されてもいない事件に出くわしてしまうようでは、簡単に外なんて出られやしない。



「そうだ、気になるお菓子の店があるんだった。この前侯爵邸で出てきて美味しかったのよね。今日はそこに行ってみようかな」



 シエラはそう呟き、今日の予定が無事決まったことに満足げにうなずいた。