そこまで考えてから思い出す。今シエラの目の前にいるのは、前世で自分が助手をしていた名探偵の生まれ変わりだ。前世(むかし)から、静奈はよく見当はずれの推理を黒瀬に語っていたではないか。


 ならば今さら彼の前で推理を間違えたって問題ない……かもしれない。

 そう考えるといくらか気が楽になり、シエラはルシウスの反応をうかがいながら口を開いた。



「デマール男爵、それから亡くなったマルガリータさんは……恐らく、良くない薬に手を出していたのだと思います」



 良くない薬。興奮作用や依存性のある、いわゆる使用が禁止されている薬物だ。

 この国でも、治安の悪い地域ではかなり流通しているという話を聞く。



「マルガリータさんは一年ほど前、情緒が不安定になり、悪魔でも取りついたのではと使用人たちが噂するほどに狂いだしました。それは薬の作用によるものじゃないでしょうか。何らかのルートで手に入れ、その依存性から兄妹は薬に大金を払うようになった。……それが、デマール家の財政難に繋がったんです」