ご先祖さまの証文のせいで、ホテル王と結婚させられ、ドバイに行きました

「そういえば、俺が砂漠の街にホテルを建てようと思ったのは、お前が言った言葉が頭にあったからかもしれないな」

「え?」

「言ったじゃないか」
 
『困ったことがあったら呼んでください。

 いつでも何処でも、あなたが呼ぶのなら。

 砂漠でも、宇宙でも。

 きっと駆けつけるから――』

「じゃあ、次は宇宙だな、俺がホテル建てるの」
と桔平は笑ったあとで、真珠を見つめ、言ってきた。

「……まだ言いたくならないか?」
「え?」

「キスしてくださいって、言いたくならないか?」

 いや、あなたさっきから、何度も勝手にしてますけど……と照れて俯く真珠に桔平は言った。

「そうだ。
 あれでもいいぞ。

 お前でもしゃべれるアラビア語があったじゃないか」

「……なんでしたっけね?」

 桔平は真珠の額に自分の額をぶつけて微笑む。

「『今宵、お前に夜伽を命じよう』」

 桔平はアラビアンナイトに出てくる王様のようにそう言うと、もう一度、唇を重ねてきた。

 縁側の向こうでは、ドバイの空のような色のヘブンリーブルーが谷中の夕暮れの風にふわりふわりと揺れていた。


                               完