ご先祖さまの証文のせいで、ホテル王と結婚させられ、ドバイに行きました

 霧の中に突き立つ超高層ビルの群れとドバイフレーム。

 作りかけの人工島にある海中ベッド。

 ラクダが横切る砂漠の夕暮れ。

 街中で吹き上がるドバイ・ファウンテン。

 ……あ~、どの思い出にも、困ったことに有坂さんがいる。

 真珠は冷たい水で米をといだあと、縁側の見える居間に戻り、茶香炉で乳香を焚いてみた。

 乳香は、じわじわと下からの熱で溶け出し、甘い香りが部屋に静かに広がっていった。

 ドバイのあちこちで嗅いだ香りだ。

 あのホテルでも微かに香ってたな……とつい、桔平のことを思い出してしまう。

 なにかが少し違う気がするのは、ここに桔平の香りが混ざっていないからだろうか、と思ったとき、玄関の引き戸が開く音がした。

「誰だ、鍵かけてない物騒な奴はっ」

 桔平の声だった。

 ええっ? と真珠は振り返る。