ご先祖さまの証文のせいで、ホテル王と結婚させられ、ドバイに行きました

 


「そう悪くないホテルだったな。
 眺めもいいし」
と桔平は窓からの景色を眺めながら言っていた。

 次の回がはじまったドバイ・ファウンテンも微かにだが、見えるようだった。

 今まで泊まったホテルの中では地味な方だったが、普通のホテルよりは格上な感じだ。

「なにか呑むか?」
と桔平はミニバーを見ながら訊いてくる。

 首を振ると、桔平はベッドに腰掛け、立ったままの真珠を見上げた。

「なんで逃げた。
 俺のことが嫌いか」

 少し迷ってだが、
「いいえ」
と真珠は言った。

「……でもよくわからないんです。
 今まで誰も好きになんてなったことないから」

「俺もそうだ」
と桔平は意外なことを言う。

「だからかな。
 なにも上手くいかないんだ。

 お前のことが気になるのに、五年もどうしていいかわからずに放置してみたり。

 だから、俺の妻に会わせろと取引相手に言われたとき、上手くかわすこともできたんだが、これがお前を呼び寄せる最後のチャンスかなと思った。

 でも、一緒にモルディブに行っても、海中ヴィラに泊まっても。

 砂漠のホテルに泊まっても。

 俺は仕事のときみたいに、強く押してはいけなかった。

 ほんとうに欲しいものは、手を伸ばせば伸ばすほど、遠ざかっていくもんだと初めて知ったよ」