ご先祖さまの証文のせいで、ホテル王と結婚させられ、ドバイに行きました

 仕事に疲れたら異国に迷い込みたいとか思ったけど。

 これなら、疲れて部屋で倒れて寝てる方がマシかもっ、と思ったとき、

「真珠」
と滑舌がよく、よく響く桔平の声がした。

「なにやってるんだ。
 部屋は向こうの棟だぞ」

 全然知らない場所でいきなり知っている顔に出会った真珠は、嬉しくなって桔平に走り寄る。

「有坂さんっ」

 迷子の仔犬がようやく飼い主を見つけたみたいに飛びつきそうになるのをぐっと堪えた。

 小走りで来たくせに、桔平の前まで来たら立ち止まる真珠に桔平が不満げに言ってくる。

「……抱きつかないのか」

「いや、恥ずかしいではないですか……」

「いいじゃないか、夫婦なんだから」

「わ、我々は仮の夫婦ですので……」

「仮じゃなくなろうと、さっき言わなかったか」

 い、嫌ですっ、と真珠は訴える。

「あなたみたいな人を好きになって、あとから、第一夫人とか第二夫人とか現れてきたら嫌ですから」

「……だから、なにドバイに洗脳されてんだ。
 俺は日本人なんで、妻は一人だし。

 ていうか、例え、他に妻を(めと)ったとしても、お前が第一夫人だろう」

 なんで、後から来た奴に追い越される? と問われ、

 いや、そこは自信のなさの表れですかね……と真珠は思っていた。