座敷へ上がった戸ノ内という男。
小さく正座する少年を見つけると、ニヤリと意味深い笑みを落とした。
『こちらも中々に良い子が手に入りました。この子なんですがね、』
そう言った戸ノ内の腕には幼子が抱えられていた。
女の子だ…、かわいい女の子だ。
『やっと3つになったばかり、名を“トキ”と言います。十を殺す鬼で十鬼─トキ─、これが驚いたことに刀を持たせると笑うんですよ』
『ほう、それは興味深いな。後々素晴らしい暗殺者になってくれる見込みがありそうだ』
『えぇ、女子(おなご)は珍しいからこそ逆に良いのではと』
『確かにな、くの一としても使えそうだ。その調子で教育に励んでくれ』
『はっ』と、戸ノ内は頭を下げた。
そんな会話を聞いているだけで、少年は今にも逃げてしまいたくなった。
この女の子もきっと自分と同じ未来が待っているんだ。
まだ3つなのに……。
『…そんなの、駄目だよ…』
『ん?どうした景秀』
『この子は…助けてあげられないのですか…?』
人斬りとして暗殺者として生きたい子供が、この世のどこに存在するというのだろう。
自分だって孤児で助けられた身だとしても、こんな人斬りとさせられるのならば孤児のままの方が良かったとも思ってしまう。