質素な墓の前で手を合わせ、伝えられなかったことを伝えた。
必ず父さんの仇は私が討つ。
その相手が例え比じゃないくらい強い者だとしても。
案外すぐ近くにいたとしても。
そのとき、どんな情が邪魔しようとも。
「…私が必ずそいつを殺すよ、父さん」
「ふむ、頑張るんじゃ」
「…やめろ。父さんはそんな馬鹿な声をしていない」
「あらら、馬鹿だなんて。ひどい娘だ」
なにを言ってるんだ、死人で遊ぶお前の方がひどいだろう。
こうして憂いている私のすぐ後ろで笑っているんだ、どうせ。
「…いい娘だね」
笑ってはいなかったらしい。
それどころか真面目な顔をして、細めていると思っていた目を開いて、黙っていれば眉目秀麗なんだと。
「お前に殺されるなら、いいよ」
「…え…?」
「ん?いや、ここまでまっすぐな剣士に殺されるなら誰だとしてもそう思うんじゃないかとね」
「…私は人斬りだ。剣士なんて大層な者ではない」
どこか気楽だった。
いつもこの場所に来ると孤独に飲み込まれそうになるが、今日は違う。
「あぁ、そうだね。ただの女の子だよ小雪は」
「……トキだと言っている」
この男が居て良かったのかもしれない。
そんなことは、絶対に言ってやらないが───。



