それでいて近づいたと思ったら弾き返されるような言葉を送られたりして、例えるなら───…雪だ。
掴んだと思ったらふわりと消えてしまう、それは雪。
「私はそんなものだとしても…十分惚れている理由になると思います」
自分で何を言っているのかと、後半になって恥ずかしくなった。
だから隣の男の顔なんか見てやるものか。
「ふっ、景秀。さっきお前が言っていた意味がようやく分かったぞ」
「…そうでしょう。でも、まだまだ小雪の良さはたくさんあるけれどね」
「それは自分だけが知っていればいい───だろう?」
「その通り。さすが家茂くん、俺の唯一の親友なだけあるよ」
将軍と親友だなんて、そんな言葉は口が避けても庶民の私からは考えられない台詞だ。
そんなふうに思っていると、ずっと黙っていた千代姫へ頭を下げたのは景秀だった。
「見て分かる通り、俺には好いている女の子がいます。将来も約束しているんです。
ですのであなたには、俺ではなくもっと素晴らしいお方が居るはず」
「…私じゃ不満ですの?」



