夜が明けぬなら、いっそ。





と、庇うように言われても。

千代姫まで私の返事を待ちわびているようだった。



「……ありません」


「なに?無いと?」


「はい」


「ちょっと小雪、」



すかさず間を割って入るようにされても、本当に無いから困る。


惚れた腫れたなんて、そもそも考えたことすら無かった。

自分とは縁の無いものとばかり思っていたし、そんなふうに想う男など想像も付かなかったから。


ただ……接吻を奪われたのは確かだ。

ぎゅっと抱き締められるぬくもりを知ったのも確かだ。


それは、ただ1人の男との出会いによって。



「…でもふとした時に、考える瞬間があります」


「ふむ、続けてくれ」


「例えば、道端に咲いている花を見たとき。彼と見た花だとか、彼に教えられた花だとか。そういえばあんな話したな…って。
そんなふうに、いつどんな時でも考えてしまう瞬間が日常のあらゆるところにあるんです」



これが困ったことに、他の人間では連想されないから厄介なのだ。


水仙の花言葉をまだ教えてもらっていないし、逆にそいつの好きな花すら知らない。

好きなものや好きな詩、私に質問してくるばかりでお前は教えてくれないじゃないかと。