出会ってすぐ、吉原へ半ば強引に連れて行かれた夜。
景秀の背中を追いかける中で張見世から見つめる女が口ずさむように歌っていた。
「…随分と悲しげな歌に聞こえる。どんな意味だ?」
「…好いている人を待ち続ける女性の歌です。夢でもいいから逢いたいと、想い続けたものかと」
「中々に上出来ではないか。驚いたぞ、なぁ景秀」
どこかぼうっとしている本人。
しばらくしてハッと気づいたようで、小さく頷いた。
「…俺も驚いた」
素で驚いているらしい。
どうして教えてくれなかったんだと、その目は語ってくるが。
どうせ教えたら教えたで「歌ってくれ」と、せがまれることだろうから秘密にしていた。
「そうだ、小雪よ」
「はい」
「お主は景秀のどこに惚れたのか、まだ聞いていなかったな」
「……」
思わず沈黙。
考えても考えても出てこないから、またまた沈黙。
「小雪?」と、不安気な景秀に心配されるが、やっぱり沈黙。
「ははは、少し緊張しているみたいだ。小雪は人見知りなところがあるから」



