「小雪よ、お主は何か得意なことはあるか?」


「……得意な、こと…ですか」


「そうだ。千代姫は頭脳明晰、徳川家の男を立てるには十分な実力があると見える。はて、小雪はどうなのだ?」



景秀が言っていた嫌な傾向とは、この事だろう。

徳川の秀でる者を好む傾向だ。


ここで剣の腕前を披露したとして、逆効果ではないのかと誰もが見て分かるだろう。

チラッと横目に流してみれば、「頼む、なんとか答えてくれ」と言わんばかりの連れの顔。



「……歌が、得意です」


「お、歌とな?ではここで披露してくれるか?」


「…はい」



驚いている。

そりゃそうだ、こんな話を誰にしたこともなかったのだから。


好きな詩は?と聞かれたときも、「ない」と即答していた私だ。

そんな顔をされることはお見通し。



「思いつつ 寝ればや人の 見えつらむ 夢と知りせば さめざらましを───…」



言葉にしてしまうと短い文ではあるが、ふわりと空気に溶けるように乗せた和歌。


これを知ったのは少し前だった。

それは景秀と出会ったあと。