城の最上階。
何人もの家来や幕臣が囲む広々とした一室にて、若き将軍の笑い声が愉快に響いた。
そんな私のこめかみには冷や汗が垂れて仕方ない。
この徳川 景秀という男はいずれ、とてつもなく罰せられるだろうと。
「しかし余は千代姫との縁談も悪くないと思っておるが。───お、噂をすれば到着したらしいな」
千代姫(ちよひめ)。
それが正式な縁談相手の名前なのだろう。
年増な醜女と言っていたが、徳川が用意する女子だ。
さすがにそんなわけないだろうと、半信半疑に待っていれば───
「ちょっと!汗でお化粧が崩れちゃったじゃないの…!」
「すみません姫様…!すぐにお直し致します…!」
てんやわんやと、音がする。
確かに春の中盤も過ぎて暖かな気候が多くなったが、別に汗をかくほどではない。
最上階へ向かう階段が少々キツいと思うくらいで、けれど慣れてしまえばどうってことないものだ。
あぁでも、確か相手は20も年上だったか…。
「上様、千代姫を連れて参りました」
「苦しゅうない、近う寄れ」
ふわっと香った化粧の匂い。
何枚もの着物を重ね着する姿は、源氏物語に出てくる登場人物のようで。



