「苦しくなるんです。なにかに触れてないと」


流の生まれ持った力はひどく厄介だ。


うらやましがられる要素なんてひとつもない。



ずっとなにかに触れていないと自分が死んでしまう。


生きているものに触れて命を奪ってしまわないと。


自分のなかにどんどん花が溜まって、溜まっていく。


息苦しくなって、それで────……




「ずっと苦しいんです。ふつうに、生まれたかった」


流れる涙はもう花でもなんでもない。


ふつうと同じ、人の涙だった。



感情がせきを切ってあふれ出し、それが涙に変わって落ちていく。



そのとき。

ふいに、頭のうえになにかが乗せられた。


そのなにかを確認する必要はなかった。


手だ。大きくて、あたたかくて、ぎこちない手が。


流の頭をわしわしと乱暴に撫でていた。







「……夜泣きすんなっつったろ」




どこか肌寒くなってきた夏の深更。


静まりかえった屯所の片隅で、流の嗚咽だけが宙に溶けて消えていく。



そう、それはまるで儚く消え散る花のように。