よろよろと廊下を進んでいた流は、がくんと膝から中庭にくずれ落ちた。


どさりと身体を投げ出され、とっさに受け身を取ることもできなかった。



視界がかすむ。息ができない。苦しい。


涙の代わりに、目から溢れるのは────花。


ぽろぽろととめどなく流れては、地面にちいさな花の海をつくる。




「ごほっ、けほっ……う、ぅ」


こうなったらもう残されてる時間は少なかった。


助けを呼ぼうとして、それは無意味なことに気がついて。


それでも声をあげようとした矢先、ごぽりと吐き出した花の塊。



人も動物たちも寝静まっている夜。


月だけが流を心配するかのように雲から顔をのぞかせていた。



そのとき茂みのほうでなにかが動く音がして。


流の前にひょいと現れたのは、一匹の黒猫だった。


人に慣れているのか、流の姿を捉えても逃げる気配すらない。


むしろ興味深そうにすり寄ってくる猫を、流は朦朧とした意識で見おろしていた。




「……かわいい」


まだ子猫に近いのか、ふわふわとした毛に包まれたその身体は温かく。


熱いくらいの小さな塊は、臆することなく流と遊ぼうとしていた。