「……わたしにはやりたいことがあるんです」


遊女だったわたしにお客さんが教えてくれた四季折々のこと。

ある人は目を輝かせて、ある人は涎を垂らさんばかりに、またある人は世間話をするように。


それらを聞いているうちに、流にもやりたいことがふつふつと沸いてきた。

いつか外に出られたならば、と。

想いを馳せるようになっていた。




「夏にはお祭りにいって、美味しいものをたくさん食べるんです。それで、秋になったら紅葉を楽しんで旬のものをたくさん食べて……冬にはまっさらな雪にみんなで寝転んだあと、あたたかいものをたくさん食べたい……って、さすがに食い意地はってますかね」


えへへ、と照れ隠しのように頬をかいたときだった。




「春は?」


足を止めることも、振りかえることもなかったが、土方のほうからそう訊いてきた。

ぱっと顔を明るくした流は、すぐに複雑な気持ちになる。




「春は……、とくにない、です」

「ないこたねぇだろ」

「でも」


わかってもらえないかもしれない。

皮肉だと思われるかもしれない。




「笑いませんか?」

「笑わねーよ」


さほど興味がないのか、冷めた声色だった。


春になれば、花が咲く。

色とりどりの花々が、咲き乱れる。


まるでこの世に生を享けたことを祝福し合うように。

自由を謳歌するように。




「わたし、は」


今までさんざん苦しめられた存在だった。

物心ついたときから身近にあったそれを、忌々しいそれを……それでも、どうしても、


恨むことができなかった。




「わたしは」


自分が馬鹿みたいだった。

だけど、馬鹿みたいにそれを望んでいた。




「……一面に咲く花が見たい」


自然から生まれた、ほんとうの花を。




「いつか、見てみたいなあ」





────流は、花が好きだった。