真っ直ぐ帰る気になれなかった。

いつから?
最近残業だと言っていたのは浮気するため?


そもそも茂は私を恋人だと思ってた?

飲みに行く友達から、ベッドも共にする友達に変わっただけ?

もしかしたら、茂にとって浮気とも思っていなかったのかも。










「だーかーらー!友人から恋人になるなんて嫌だったのよ」

「どうしてですか?せっかくなら吐き出してしまったらどうですか?」

癖の無い黒髪を後ろで束ねた30代後半のバーテンダーが親しみやすい笑顔で話す。

駅へ向かう道すがら大通りを歩く気持ちになれず適当に脇道を歩いていた。6年この会社にいるがビルの間にこんな道がある事を知らなかった。
私は色々なものを見落としていたのかも知れない、茂の事も友人としての顔と恋人としての顔の違いに気づいてなかったのかも、だからといって許す事はできないけと。

道に迷って分からなくなればタクシーに乗ればいい、そんな気分で細い道を適当に歩いていると1軒のBARにたどり着いた。

一人で呑むのも良いかもしれない。

そんな軽い気持ちでお店に入るとカウンターといくつかのテーブル席があり、テーブル席ではカップルが楽しそうにグラスを重ねていた。

カウンターには年配の男性が一人と間を空けてグラスだけが置かれていた、多分お手洗いにでも行っているんだろう。

私はその間に座ってフォアローゼスのハイボールを注文した。


「はぁ、おいしい。スッキリした」
一気に飲みほすとおかわりを注文した。

「気持ちのいい飲みっぷりですね」

「今すごく喉が渇いてたから炭酸が喉を刺激してスッキリしたわ」

そうして二杯目のハイボールを喉に流し込んで沸騰して蒸発してしまった体内の水分を補った後はフォアローゼスのロックに切り替えて五杯目になっていた。