仕事を終え、ビルを出ると一人の女性が声を掛けてきた。

「あなたがトヨタさん?トヨタさんよね、写真で見たから」

余りに不躾で失礼な態度に半ば呆れてしまったが、上役の娘とか取引先の関係だったりすると面倒になるので、感情をグッと押さえた。

「確かに豊田です、失礼ですが?」

「本当に失礼ね、恵だけど」

んん?非常識の権化の様なこの女に失礼とかいわれたし、てか、めぐみ?源氏名ってこと?

あまりにもポッカンとしていたためか、めぐみはイライラと靴を鳴らし始める。

「ご用件はなんでしょうか?」

「はぁ?ご用件?人の彼氏奪って澄ましてんじゃないわよ」

彼氏?だれ??

「茂の浮気相手でしょ、わたしとの約束を破ってあんたと会ってるの知ってるんだから」

「え?北山くんは同期として仲良くしてるけどそれ以上なにもないけど?向こうもそんな感情持ってないわよ」

「嘘を言うな」と、言って大騒ぎをしていたのでとりあえず、近くのファミレスに入り話を聞いた。なんとか納得して帰ってもらったが、私も彼女がいる人と差し飲みは良くなかったと気がついた。私が彼女の立場なら嫌だと思う。
反省を込めて、今回のことは事を荒げるつもりはなかったが、茂の同僚にみられていたようで茂から謝罪と、彼女とは別れたとの報告をうけた。

だから、1年前に茂が合コンでまた彼女ができたという報告を受けて、食事も飲みも断っていたある日のこと、茂から二人で会えなくなるくらいなら恋人になってほしいと告白されたのだ。

余りにも短絡的な理由なこととトラウマで断ったが、今まで恋人になっていつか別れが来ることが怖くて友人という形にはめて誤魔化していたと告白されて、落ちてしまった。

そんな風に二人の交際は始まった。