そりゃあもちろん、素敵な物語の中で描かれる恋には憧れってものはある。
でもそれは私にはただの物語でしかなくて、自分には聖女としての務めが第一だった。
力を付けて国を、民を守りたい。
憧れる先代を追いかける日々に、そんな恋に憧れる暇なんてこれっぽっちもなかった。
クリフ王子と愛のない結婚をして、他人行儀が当たり前の夫婦になってしまうんだろうと、そんな未来を想像していたせいかもしれないけれど。
「王子に対して色目を使うことをしていなかったから、こんな結果になってんだよ」
「でも好きでもない人にそんな事をしようとする方が、時間の無駄じゃない」
「城を追い出されてもまだそれが言えるのか?」
「それは、その……」
ジルの言う通り、私もクリフ王子に対しての態度や行動を示していれば、あの城内でも私の立ち位置は変わっていたのだろうか。
クリスタルを元通りにしてお城に戻った所で、クリフ王子は私を嫌っている。
私が恋心がないにしろクリフ王子と仲良くしていたら、こんなことにはならなかった……のか。
「全て私が悪かったのよね。そういうの疎いだけじゃなくて、聖女としても落ちこぼれだもの……そりゃあ捨てられて当然よ」
「……ったく、仕方ねえ奴だな。城に戻った時に、一度自分が捨てた女に目が行くように指導してやる」
突如よく分からない事を言われるや否や、ぎゅっと腰を抱き寄せられた。



