どんなひとなんだろうと思っていた青木くんに会う機会は、思いの外早く来た。

わたしの担任の先生が、放送部の顧問をしていたからである。


放課後、教室に残って先生ととりとめもない話をしていたら、ガラッと扉が開いた。


「失礼します。三組の青木です」


このひとが青木くんか。色白で線が細い。声に合った、穏やかそうな垂れ目が印象的だった。


「あれ、どしたの?」

「先生、CDプレイヤーって借りられますか?」

「ああ、曲決め? 部室は使えなかった?」

「放送室は三年生の先輩方、練習室は二年生の先輩方が真剣に会議中でして、さすがにちょっと。僕は今日じゃないと難しいので、他の一年生と予定が合わなくて」

「わかった、CD持っておいで。ここでやっていいよ」

「え、でも他にひといますし、三組行きますよ」

「大丈夫大丈夫、千秋(ちあき)暇だから。ひとりでやると煮詰まるしさ、第三者の目があった方がありがたいじゃん」


な、暇だよなー、と聞かれたので、大きく頷いた。


暇です。あと気になってた青木くんと話してみたいです。


「それはありがたいですけど。……あの、先生。名前を呼び捨てするの、いいんですか」

「名前? 呼び捨て? ……ああ! 青木おまえ、いいやつだな〜!」

「はい?」

「先生のことも千秋のことも心配してくれたんだろ。えらい! いいやつ! 心配するな、千秋は名字だ!」

「えっ」


そうなのである。


よく勘違いされるんだけど、わたしは千秋って名前じゃない。そして先生は全員を名字で呼んでいるので、特別な何かもない。安心。