そして、その日から今日まで。

吸い込まれるようにして、彼女…あやっちのことを視界の端っこに常に入れて、眺めて来たけれど。


どうも、彼女は自分を押し殺すのが得意らしい。

きゅ、と噛み締めた口唇。
何か言いたげな、揺れる瞳。

緩く編んだ三つ編みが、そのまま彼女の本音を隠しているようで…なんとも見ていて目が離せない。

なんでも自分で背負い込もうとしてるその姿勢が、どうにも危なっかしく感じられる。


でも、今のオレには、何が彼女をそんなにも頑なにさせるのか皆目検討が付かなくて…。


見つめるだけの日々。


なーんだか、不毛。


でも、この気持ちが、なんなのかも分からないのに、なんで不毛とか思うのかも…謎だ。


あーぁ。
彼女へのこの気持ちが、簡単に紙の上へと写し出せたらいいのにな…。


「おーい。翔太ー!」

「んー?」

「…なに、お前?随分と元気ないじゃん?」


オレの周りにいる奴らは、クラスの中でもやんちゃな方で、今話し掛けてきた筧隆史(かけいたかし)は見事に金髪にした、ピアスの似合う優男。


「お!もしやお前さん!恋でもしたか?!」

「……うーん」

「なんだよー…つまんねーな!何時ものお前ならそこは笑って曖昧に返すとこだろー?」


楽しげににゃははと笑う隆史は、さらりとした横髪を耳掛けして、悪気もなく続ける。


「ま、お前にゃ恋はまだ早いけどな!」

「ばーか。自分より先に彼女持ちになって欲しくないとか思ってる奴に言われたかねーっての」


俺はそう言って、ばしん、と隆史の背中を叩いた。


「いたっ!なにすんだよー!しょーたのいけず!」

「色々一言多い、お前が悪い」


そう言うと、何か言い返そうと口を開き掛けて、隆史はいきなり、顔をしかめた。


「…?」

「須賀が怒ってる…」

「は…?」

「こぇえー!オレ、田上ンとこ行ってくるわ」


そう言って、そそくさと俺の目の前からいなくなる隆史を訝しげに思いつつ、親友でもある須賀の方を見ると、確かに不機嫌特大オーラを纏っていた。

その視線の先には、楽しそうに石井ちゃんと話してる神谷がいて。

鈍いオレでも、


「あちゃー」


と思った。


……何気に石井ちゃんと須賀って、水と油っていうのか、真逆なタイプだしなぁ。
何かと目の敵にしてるのを見てきてるし。

それが、須賀の好きな神谷を独占してるときたら、不機嫌特大にもなるよな…。


オレは、そんな須賀のゆらゆら揺れて見える、黒いオーラの後ろでまた深い溜息を吐いて、遠くを見てるあやっちを視界に入れた。


何時まで、こうしてれば自分のこのモヤモヤした気持ちが晴れるのか…?


叩き付けられている難問に、目を瞑ることも無視することも出来ず、気付くとオレも溜息を吐いていた。