そんなそわそわした動揺を悟られまいと、わざわざ顔が赤いことを指摘すると、あやっちはぷりぷり怒って、そんなことないなんて言う。


でも…。

あやっちのおでこに手をやったオレの手を、きゅうっと握って「嫌じゃないよ」なんて言ってくれちゃうんだ。


そんなの、ほんとに…だめでしょ。
がっつり落ちてっちゃうよ?
あやっちのこと、ほんとのほんとに諦められなくなっちゃうよ?


なんでそんなに可愛いことしてくれちゃうかな。
もう、分けわかんない程、無条件で可愛い。

そんな可愛いとこを見せ付けないで?

じゃないと、オレはあやっちを好きになるために生まれてきたんだ、なんて誤解しそうだよ。


かなり開いてくれている感じのする心の距離。
その場所に、オレって言う存在が少しでもあるのなら……そう願わずにはいられないんだけど…、自惚れてもいい、この想いを受け止めて欲しい。


だから…この大事な試合に勝ったら、絶対にもう一度言おう。


キミが好きだと。

もう、一人では泣かせないと。

何よりも…ありのままのあやっちが、必要なんだと…。


キミのためにどこまでも強くなる。
そう、心に強く誓ったんだ。
誰からも守れるように…その純真で綺麗で透明な心を、二度と壊したくないと。


勿論、石井ちゃんには、勝てないかもしれない。
でも…勝てなくても石井ちゃんよりも傍にいられる存在になれたらいい…。


そう、心に誓ったんだ。


あやっちは、自分を過小評価し過ぎる節がある。
だから、危なかっかしくて目が離せないんだと、ずっと思ってた…。


だけど…そういう予兆はあったのかもしれない。


そう、こんなにも好きになるという予兆が。


「オレ、何回あやっちを可愛いって思えば済むんだろー…」


そんなことを口ずさんで、浮かれそうな足を必死に引き締め、体育館へと向かう。


「絶対に勝つから。それが自分のためじゃなくて、あやっちのため、なんていう不純な理由付けでも…それでも…この世界が廻ってる限り、オレのこの想いはウソなんかじゃないから…」



キュッ


体育館に歩みを一歩進めたオレは、控えめにギャラリーの右から七番ブロック…後ろから数えて八番目の席に座っているあやっちの姿を確認してから、試合前の最終調整に入るために、丹下ちゃんのゲキが飛ぶ中、練習に集中した。