「ねぇー?あやっち?なんか顔赤くない?」


ぴと


いきなり大きな手でおでこを触られて、びくりと肩が動いてしまった。
それを拒否だと受け取ったのか、翔太はすぐさま、


「あ、ご、ごめんね?」


なんてパッと手を離そうとする。
私はその誤解を解きたくて、思わず両手でその手を掴んだ。


「えっと…えーっと…あ、あやっち…?」

「あーもー…ごめん、はこっち!ぜ、全然嫌とかじゃ…その…ないし……」


なんだ、この変な空気は。
焦れったいような、くすぐったいような、心のどこかがむず痒い感覚。


どんどん声が小さくなる私。
でも、掴んだ手には気持ちも込めて、きゅうっとしっかり力を入れた。


そんな私に向けて、翔太はくすりと笑って私が掴んでない方の手で、くしゃりと私の三つ編みを撫でた。


「そっか…ありがと」


今まで、ここまで意識したことはなかったから、こうして改めて大きい手とか心地いい低い声とかを感じてしまうと、どうしていいのか分からない。


「こ、こちらこそ?」

「ぷっ…あやっち、ほんっと顔真っ赤っか」

「う、うるさいなぁ…もう…」


熱くなる顔をパタパタと手うちわで冷やして、翔太をにらむと、翔太はいたずらっぽく微笑んで、


「あー…あやっちのお弁当楽しみだなぁ」


なんて、鼻歌を歌い出した。


「ほ、ほんとに、大したもの作れないからね?!」

「じゃあ、その分あやっちの愛情たっぷり込めてね?」


ぱちん


華麗なウィンクをされて、私は何も口に出来なくて、


こンの天然人たらしーー!


と、心の中で盛大に叫んだ。


翔太は、無償の優しさを常に私に与えてくれて、その優しさに私は徐々に癒やされてほだされいくのを感じている。


「ね、あやっち?」

「ん?なぁに?」

「絶対に勝つからさ…」

「うん」

「そしたら、聞いて欲しいことがあるんだ。だから、最後まで見守っててくれる?」

「…っ!う、うん!」

「へへ…ありがと」


ぽんぽん


心底嬉しそうに、笑い掛けてくれる翔太。
胸がきゅんとなって、凄くドキドキして、恥ずかしくて…それ以上に、嬉しかった。


こんな私が、翔太に愛情を掛けてもらえるなんて、もうそれだけで凄いことだと思うんだ。


彼に醜い気持ちを持って、小桜にそれを当たるようにしているこんな私に…翔太は優し過ぎる。


そう…思うんだ。

だから私は、撫でられた手も掴んで…。


「私こそ、ありがと」


と、呟いた。