何時だって、クラスの…ううん、学年一のムードメーカーな翔太。
優しいのは、分かってた。
何かあると必ず、誰よりも先に手を差し伸べてくれる、眩しいくらいの存在。
好かれて嬉しくないはずがない。
なのに、なんで今私はこんなにも切ないんだろうか…。
泣きそうなくらい、心が揺れ動いて、立っていられいられないほど、胸の中が掻き乱されるのか。
意味が分からなくなって、フリーズして…。
それから私は、満面の笑顔をした後で、顔を薄っすらと紅くしてる翔太をじっと、真正面から見据えて、
「あ、ありがとう…?」
と言った。
それに対して、柔らかそうな髪をかしかしっと掻いてそのまま横にすっと流してから、口を尖らせ、
「えぇー?なんでそこで疑問形になんの〜?」
と、抗議してくる。
それが、なんとなく捨てられて鳴くわんこみたいで、くすりと笑みが零れた。
「や、なんか…実感湧かないってか、翔太なら選り取りみどりじゃん?」
「もー!あやっちはオレのこと買いかぶりですぅー!モテんのは隆史とか、他のメンツばっかだよ?こう見えて、オレ一途なんだかんねー?」
その後もぶーぶー文句を言う翔太の隣で、笑いを堪えきれずに、さっきまでの涙なんか忘れてしまうほど、私はケラケラと久し振りに心の底から笑った。
「翔太は優しいね…」
「好きな子のみ限定でね」
「くすくす。はいはい」
暫くそんな会話をして、落ち着きを取り戻した私は、先に教室に戻ると言った。
なんとなく、二人一緒に…ということに照れを覚えて。
なのに、翔太は一緒に行くの一点張りで、結果仕方なく二人一緒に教室に戻った。
席に付くと、隣でそれを見ていたらしい未来に、こそっと、私が今の現状に耐えきれずに胃痛で倒れた時の事を、事細かく説明されて、心臓がひっくり返るかと思った。
そして、心の底から…。
やっちまったい!
と、そう思ったのは言うまでもない。
でも、翔太のストレートでどこまでも素直な気持ちは、私にとって大切なものとして、胸の中へとふわんと沈んで行った。
それは、なんだかくすぐったくて…特別なモノになりそうだった。
「好き、かぁ…」
気付いたらその言葉を口にしていて、私は手にしていたノートを口元に持っていき、朱に染まりそうな頬を隠した。
優しさは時に人を傷付ける。
でも…翔太の優しさは、多分彼の優しさとは真逆のもの。
毒のある優しさを持つ…彼。
なんで、私は別の子に恋してる彼を、皮肉にも好きになったのかな。
それよりも。
もっともっと前に、翔太と出逢えていたらどうなっていたんだろう…?
そんな「タラ・レバ」を考えては、一つだけ息をついた。
それは、溜息にもならないくらい、小さな小さな「オト」。
なんの色もない、透明な「オト」だった。
…これから、翔太の傍にいたら…こうやって泣いたり悲しんだりすることもなくなるんだろうか…?
こんな私は、狡いやつだと本当に思うよ。
ねぇ?
翔太、貴方を私の大切な存在だと、思ってしまってもいいですか?
あの日、二人で帰った日から…翔太のことをなんとなく、なんとなくだけど、心の中にその存在が染み込んできてる気がする、から…。