その日、朝から彼は登校中の生徒に交じって爽やかに姿を現した。

とはいえ、その赤髪が妙に目立っていて、「誰だあれ」「あんな子いた?」なんて声もちらほらと聞こえて来る。



こちらに気付いたその男は、ヘッドホンを首から下げてシンプルなTシャツジーパン姿で、こちらに手を振ってくる。

その爪のネイルは今日、黒かった。

お前その姿でもネイルはやめないのか。



「誰?」「和香ちゃんの知り合い?」「まさか彼s……っ」「黙れ、俺たちの夢を壊すんじゃない!」なんて声まで聞こえて来て、想像力のたくましいことにもはや尊敬すらしそうだった。



「おーはよっ和香」

「さほど派手な格好じゃない癖に目立ってる」

「えーなにダメ出し?」

「……別に、いーんじゃない?佐藤がそれが好きなら別に否定はしない」



そう私が「佐藤」と言葉を零した直後、私の声の聞こえていた一帯が間を置いた後、信じられないようにザワついた。

今日は、男版・佐藤蜜改め佐藤氷のお披露目初日である。










「わははははははははははははははっひーっダメ無理あはははははははははっ」



豪快に腹を抱えて笑っているのは、鞠だった。