高井綾香に元カレがいた。
その事実は、僕が思っていたよりもずっと、僕を動揺させた。
あのレストランで、綾香を詰めに詰めた結果、綾香からいくつか情報を引っ張り出すことができた。

高校時代、綾香に告白してきた男と一時的に付き合ったこと。
その男と、Tシャツを着るペアルックもしたとのこと。
お小遣いがあんまりなかったから、ランドで売られてるファーストフードを2人で分け合いながら食べたこと。
アトラクションの趣味が合わなかったこと。
そして……待ち時間に、喧嘩をして、そのままお別れをしたこと。

大したことがなかった……といえばそれまで。
だけど僕は、どうしても許せなかった。
綾香が、ランドに来る度に、その男のことばかり思い出してしまうことを。

「行くよ」
「えっ、ちょっと……加藤さん!?」

僕は、コース料理の支払いをもちろん全額しっかり支払った後、綾香の手をしっかり掴んだ。

「加藤さん!どこに行くんですか!?」
「黙って」

綾香を連れて行ったのは、すぐ近くにあった店。
たくさんのTシャツが陳列されている。

「か、加藤さん?」
「選んで」
「え」
「いいから、選んで」

戸惑った様子の綾香だったが、僕には考えがあった。
例え、その元カレとの思い出がどんなに些細なものだったとしても。
綾香の中からそいつとの思い出を全て塗り替えてしまえばいい。
そうすれば、ランドに来る度に綾香は僕の事だけを思い出すようになるはずだ。