見ると、壁に体をもたれかけた状態で懸命にこちらを見ている。


この町では神事が忘れられている。


正月も、お盆もすでになくなった。


キツネや狛犬は人の形になることで、どうにか人々の記憶にとどまっている。


そして、裏鬼門も忘れられる存在。


良介は大きく息を飲み込んだ。


忘れられたら、存在していられなくなる。


「モヤなんて存在しない!」


良介は叫んだ。


瞬間、少しだけモヤの存在が揺らいだのがわかった。


それを見て、こっちの世界の良介も体制を立て直す。


「怨霊なんて現実にはいない!」


また、モヤが揺らぐ。


その存在は人間に信じられることで保っていられるからだ。


「お前は架空の作り物だ。誰もお前のことを信じてなんかいない。存在しないものは、怖くもない」


モヤがグニャリと歪んで人の形を保っていられなくなった。


それに気がついて大倉先生が息を飲んで振り返る。