稲荷寺のパラレル少女

☆☆☆

「だけど結局、わたしの母親は岩を砕くまでにはいたらなかった。自分は施設に入って平和に暮らすことができたから、この町に恩があったみたいね」


「先生のお母さんは思いとどまった。それなのに、先生はその岩を砕いたのか!」


良介が奥歯をかみ締める。


「そうよ。おばあちゃんがこの町でどんな目にあったのか、考えたらかわいそうで仕方なかった」


マスクの奥で声が震えた。


先生は祖母にひと目会うことも叶わなかったのだ。


「こんなことしたら、母親が悲しむとは思いませんか?」


「思わないわ」


ハッキリとした口調。


「だって私のお母さんは先週病気で死んでしまったから。だから今こそ、私が復讐するときが来たんだと思った。すべて順調だったのに……あんただけ、なぜだかモヤの効果を受けなかった」


先生の目が良介をねめつける。


良介は緊張からゴクリと唾を飲み込んだ。


「なぜあなただけ平気でいられるの? これじゃ復讐が成功したとは言えないわ」


先生が近づき、ナイフが鼻先に突きつけられる。