稲荷寺のパラレル少女

ヨシコの泣き声に驚いて駆けつけた近所の人が自体を理解し、そして、ヨシコは一人施設に連れて行かれたのだった。


大人になったヨシコは普通に仕事をして結婚をして、子供をもうけた。


それが大倉先生だ。


しかしヨシコの記憶の中にはこの町の人たちに虐げられてきた母親、キミコの姿が克明に刻まれていた。


キミコはこの町の人間に殺されたも同然だ。


そして自分はこの町の人間に生かされた。


その複雑な心境を抱えたまま、中学生だった大倉先生を連れてこの岩へとやってきた。


40年前に起こった水害が原因で沢山の命が奪われた。


その命を沈めるためにこの岩が設置されたことは、みんなが知っていることだった。


この頃の先生も授業で習って知っていることだった。


だから自分の母親であるヨシコがハンマーを片手にここへ来たときには、なにをするつもりなのかも全部理解していた。


「この岩には強い念がこもっているの。この岩を砕けばきっとこの町は破滅する。お母さんのための復讐になる」


ヨシコはそう呟いていたという。