稲荷はうなづいた。


「おそらくは。こっちの世界の良介さんにもあのモヤの効果が出ていない。そこで、良介さんにとって身近な人間たちを使い、排除しようとしているのでしょう」


稲荷の説明を聞いている間に、こっちの世界の良介が登校してきた。


背中を丸め、周囲の人間たちにおびえているのがわかる。


きっと、今までも何度も危険な目に遭ってきたのだろう。


その歩みは亀よりも遅く、体はとても重たそうに感じられる。


そんなにしてまで学校に来なくていいのに。


そう思うが、こっちの良介にはそれなりの理由があるかもしれない。


俺は学校をサボるくらいどうってことないけど。


こっちの良介が校門前まで来たときだった。


不意に数人の生徒たちが良介に近づいていくのが見えた。


「まずいわ」


稲荷が呟いた次の瞬間、さっきまで普通の歩いていた生徒たちが一斉に良介に向かって飛び掛り始めたのだ。


「うわぁ!?」


生徒たちに取り囲まれて悲鳴が聞こえてくる。


「くそっ」


良介は軽く舌打ちをして茂みから駆け出した。