稲荷寺のパラレル少女

どう見ても嫌がっているのに、それを口に出すこともできないなんて。


良介と英也たちの関係はこんなものじゃなかった。


嫌なものは嫌だと、ちゃんと言える関係だった。


大輝はそんな2人を見て粘つく笑みを浮かべている。


こちらの自分を助けようとしない大樹に胸の奥がムカムカしてきた。


一歩踏み出して文句を言ってやろうと思ったが、右手を稲荷に掴まれてしまった。


振り向くと稲荷が険しい表情で左右に首を振った。


その間に3人は校舎へと戻って行ってしまった。


チッ。


心の中で舌打ちをして、大きく息を吐き出す。


「行こう」


稲荷が小さな声でそう言い、良介の手を掴んだまま、歩き出したのだった。